亀戸の自転車道は、今後の自転車道整備の様々な問題点を浮き彫りにした整備事例といえるだろう。ここは、国土交通省がこれから自転車通行空間をがんばってやっていきますという一番最初のモデル地区の1つ。つまり、全国の模範となるべく作られた自転車道なのだ。
だからこそ、「いいところ」と「問題点」の両面をしっかり見極めていくことが大切なんだと思うけど、休日の歩道橋の上からこの自転車道の整備を見たときの私の第一印象はすごい!よく出来ているじゃないかというもの。そもそも危険な自転車を歩行者との分離を図る目的で歩道から出すことが目的でスタートした自転車道整備というのは、歩行者の視点からみれば安全面では効果的かもしれないが、自転車ユーザーから見た大切な視点、つまり”走りやすさ”が根本的に欠けていると言わざるを得ないのかもしれない。この亀戸の自転車道はそういう意味でいわゆる自転車ユーザーからの批判がとっても多い。(ちなみに自転車道を頑張っていくという方針だけを聞いたとき、やっと自転車を歩道側にあげるための整備が進められるのかと思ったが逆だった記憶がある。)
道路をつくる側からの視点で言えば、すべての道路をつくる上での基準は「道路構造令」が絶対であり、自転車道の整備もこれに従わなければならない。亀戸の自転車道も道路構造令から見れば基準上の問題はないはずだ。道路構造令の自転車道の基準で最も分り易いのは幅員を2.0m以上とするということ。
バス停部付近の処理なんて、構造的にはすっごく考えられている感じがする。ここだけ見ると、視界も開けているし、歩道部との境界がもう少しフラットにしてすれ違いの問題さえ回避できたらいい感じになるかもしれない。
ただ、私の双方向の自転車道のイメージは、1人の幅しかない上りエスカレーターのすぐ横に境界のない同じ幅の下りエスカレーターがある感じ。普通に止まってのっている時には全然問題ないけど、いつはみ出してくるか分からない中でちょっと急いでいたり、誰か一人でも抜かしながら来る人がいるとすっごく危ないみたいな感じだろうか。
交差点では自転車通行帯を必ず通行できるように広めの滞留空間が整備されている。自転車が車の信号に従うべきなのか歩行者用の信号に従うべきなのか曖昧な現在(自転車通行帯が横断歩道の横に併設されていたら歩行者信号でそれ以外は車道の信号に従うのが原則のはず)では、交差点部の自転車の安全対策を考えるならこれは有効な処理といえる。
雨の日の翌日、この水たまりを通らなくちゃいけないというのは酷なことだろう。どうもこの区間は排水が悪いようだ。
通行している様子を見てみるといろんな問題も見えてくる。
【いいところ】
・路上駐車で使われていなかった車線を自転車専用道として整備したこと。今までこんなにしっかり整備したところはなかった。
・交差点部やバス停部など、これまで結構曖昧に整備していたところを連続的な自転車通行空間として上下線ともに確保したこと。
・国道14号という大型車の多い路線にガードパイプと縁石ではっきり車道と分離した空間を確保したこと。
・自転車道の整備により歩道は歩行者のためのものであって、自転車は通行してはいけないことを大きな声で言えるようになった。
・車道を通行する自転車が守るべき信号はクルマと一緒だけど、自転車通行帯があるところは歩行者と同じ信号を守ってもらうことを物理的に誘導させたこと。
【問題点】
・自転車道にしちゃったら、自転車はここしか通ってはダメということ。歩道も車道も通ったらダメ。強制的にここを通りなさいと言われている。だから、スピードの合わない自転車を抜かすことなんてダメだし、エスカレーターに乗っている時のようにずっと前の人の後ろについていくしか許されない。つまりその方が安全でしょうという原理を押し付けられている。
・縁石とガードパイプで挟まれた2mの空間での双方向通行はまったく逃げ場がない。途中から自転車道に入ることも出ることもできない。平日の通勤通学時の現状を考えるとかえって危険も。
・荷さばき車両がうまく止められなくなってしまって、結局さらに1車線まではみ出して停車しているという危険を招いてしまっている。
【今後の課題】
・自転車道ではなくて自転車レーン+自転車通行可歩道の方がいい?
・というか、自転車道の遵守率が上がらないと作っても効果が発現しない
・2mの双方向はやっぱり狭い。使いにくいから走らない?裏道を通る人も増えてしまう。
・自転車道にするなら、歩道との境界はもっと緩やかに
・荷さばき車両の停車帯への対応を考えておかないと
・結局は部分的な通行空間整備に意味がなく、乗りやすい自転車走行空間が必要
【まとめ】
安全性を重視するところはもちろん重要だけど、自転車の走行性を考えること。例えば交差点部の安全面だけをみたら、亀戸の事例は素晴らしいけど、じゃあ毎日ここを通って通勤したいかって言えばいやじゃ となる。周辺ネットワークと整備レベルをどうすりあわせていくかということが一番重要になってくるようだ。トレードオフ問題なので、答えは1つにならないところが難しい。だからこそ、自転車ユーザーの一人として熱く、コンサルとしては冷静に考えていきたいところだ。